大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口家庭裁判所 昭和38年(少ハ)1号 決定 1963年5月10日

少年 S(昭一七・一〇・五生)

主文

本人の収容を昭和三九年三月一三日まで継続する。

理由

一、本件申請の要旨は、「本人は処遇成績不良のため昭和三八年二月四日広島少年院から特別少年院新光学院に移送入院となり、同年五月一三日をもつてその収容期間が満了するものであるが、入院後日も浅く現在予科に編入されて修養生活に励んでいる。新光学院に入院してからは特記すべき問題もなく処遇経過は普通域にあるけれども、本人には精神分裂病質傾向が濃厚であり社会性は極めて乏しい。また本人は以前再三にわたり事故(暴力行為、喫煙)を起しているため、現在二級上の処遇段階にとどまつているのであつて、最高処遇段階に達し出院するまでには、さらに相当期間収容を継続しなければならないが、以上のような本人の精神状態、処遇成績に鑑みると、今後なお一〇ヵ月間本人の収容を継続して、矯正治療教育を施すとともに社会性の養成につとめる必要がある」というにある。

二、当裁判所は、新光学院分類課長川上清信、同担当教官有光清および当裁判所調査官伊藤宏の意見をきいて、つぎのとおり判断した。

本人は昭和三六年一一月一四日付決定をもつて、精神分裂病の疑いありとして医療少年院に送致されたものであるが、その後の診断によりその疑いはないとされたものの分裂性、爆発性精神病質の傾向は否定されず、現在の精神状態についても、精神薄弱兼爆発型精神病質であるとの鑑定がされている。このように一年以上の長期にわたつて矯正治療が施されても、本人の精神状態における異常変調が残存することよりすれば、本人の収容をこれ以上続けてもその治療効果は期待できないのではないかと思われるのである。換言すれば、本人は少年保護制度に親しまない精神異常者として、これを取り扱わなければならないのではないかということである。

しかしながら、本人が新光学院に入院してから特別問題がないということは、同学院の処遇方法に多少とも期待が持てそうに思われるのである。同学院においては、本人自身も述べているように従前の少年院に比して厳格な取扱いがなされており、しかも院生が概して年長で本人のわがままな行動が許されない状態にあり、他方本人に対してはこれを精神異常者としてではなく他の正常な精神状態の者と同様に取り扱い、もつて本人の社会性の養成につとめていると認められる。もとより三ヵ月たらずの在院成績をみて上記のような処遇方法の効果に全面的な期待をかけることは甚だ危険であるけれども、この際このような方法を試みながらしばらく状況を観察するのも無意味ではなかろう。

本件申請は第二回目であり、家庭の受入れ準備もほぼできているようであるけれども、本人の上記のような精神的欠陥およびこれに基因する犯罪的(とくに暴力犯的)傾向の残存、ならびに退院を相当とする最高処遇段階に達するには今後相当な期間が必要であることを考慮すれば、本人の収容を昭和三九年三月一三日まで継続するのが相当であると認められる。

以上の理由により主文のとおり決定する。

(裁判官 谷水央)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例